第4 章 1 日200 件のテレアポ - マネジメント研修 マネジ ….PDFVIP

第4 章 ： 1 日200 件のテレアポ ～逃げる黒田と努力する明智～ ●黒田 織田リフォームに入社して2 週間が経った。 今は、営業部に配属になったオレと明智は 1 日中テレアポを続けている。他の4 名は施工 部が2 人、総務部が1 人、企画課が1 人だ。 俺たち営業部の新人は毎日200 件のコールがノルマとなっている。 200 件の電話は精神的にしんどい。何せほとんど断られるのが当たり前だ。「アポはとれな くてもいい」というのはせめてもの救いだったが、それでも毎日200 人から断られ続ける のも楽じゃない。200 件の内、120 件は露骨に嫌がられているのが電話越しに分かる。「リ フォーム…」と言っただけでガチャリと切られることだって珍しくない。 このテレアポ修行は織田リフォームの営業部員全員が通る道だそうだ。去年の木下さんた ちはもちろん、中途入社した前田さんも入社後しばらくはテレアポ三昧だったらしい。 今の時代、業界でもネットでの広告が増えてきているが、テレアポに力を入れているのは 織田リフォームがバリアフリーを得意にしているからだ。 テレアポのリストは70 歳以上の高齢者がいる世帯と、40 代以上の方が世帯主で比較的古い 家を持つ世帯。リフォームというと飛び込み営業も大きな営業手段だけど、悪徳業者が横 行してイメージが悪いため、織田リフォームでは行っていないそうだ。それはラッキーだ なと思った。電話でもこんなにしんどいのに、対面で断られるなんて…想像するのも嫌だ。 テレアポなんてほとんど成功率しない。 1 件断られるたびに気が沈み、次のダイヤルを回すまでの時間は伸びる。 隣の明智の電話が開いていると見えると、「なぁ明智…今の人さぁ…」「オレ、さっき『こ んな電話して恥ずかしくないのかッ』って言われちゃったよ」と被害自慢をしたくなる。 明智も初めは同じように話に乗っていてくれたけど、オレを避けたいのか、段々と間をお かずに電話をしていくようになった。 この期間でオレには素晴らしく上達したことがある。それは「先延ばしする言い訳」だ。 上達したいとは思わないけど、自分の心に素直に従っていると、知らずに上達していった。 はじめは「今はお昼の時間だからまずいよな…」とか「今はたぶん買い物している時間だ ろう」くらいだったけど、上達すると、そこまで考える必要はないだろうと言うところま で考えられるようになる。 「たぶん今はミヤネ屋の時間だから電話はまずいだろう」とか、テレビ番組の間の時間で も「今はいいタイミングか？いやこの時間だからこそトイレやふろ掃除をしている人もい るはずだ」とか。 さすがにここまで考えていれば、電話をかける時間なんてどこにもない。 ただ、電話をかけたくない言い訳だった。そんなことは分かっている。分かってはいるけ ど断られるのは怖い。かけなければならない事実とかけたくないホンネ。この2 つの心が 対立すると、オレはいつもホンネを応援してしまう。 となりの明智を見ると、間髪入れずに次々と電話をかけている。 もちろんオレと同じように断られているのだけが、お構いなしにかけて行く。 「アイツには人間の心が無いのか…電話ばっかりかけて、ロボットみたいだ」 しばらくすると、ときどき明智の席が空く日が出てきた。 アポが取れたら先輩営業マンと施工担当の 2 人で訪問をするのだけど、自分でとったアポ イントには同行していけるからだ。その間はテレアポからも解放され、しかも営業の現場 を体験することができる。 明智に先にいかれた気がした。 「なんであいつが…60 社も受けてようやく内定をもらったようなやつが…」 たまたまだよ、とオレは言い聞かせた。 そして、オレは新たなワザを身につけた。 電話だけして繋がらなくてもリストに「×」をつけるワザだ。本当は繋がらなかったとき は「△」で、「×」は繋がって断られた時にしかつけてはいけない。 ここで使うのが「1 人通話そぶり」だ。相手が留守電でも、しゃべって断られているフリを して「×」をつける。自慢じゃないがかなり上達した。 だから、200 件の通話ノルマに対して、実際につながっているのは 120 件程度。 それでも十分すぎるほど、精神的にはきつかった。 「この場から逃げたい」と何度も思った。 毎日、終業時間が待ち遠しかった。18 時が来るとすぐに帰り支度をして会社を出るように なっていた。 「オレは何をやっているんだ」という罪悪感と、 「何でオレはアポが取れないんだ」という劣等感。 さらに「なんで明智ばかりうまくいくんだ」という怒りも生まれた。 その