第1节金属结晶构造と物性.PDF

第1節 第1節　金属結晶構造と物性 山梨大学　　柴田 正実 はじめに 　無電解めっき皮膜は金属，半金属，合金である。ここでは金属の結晶構造と物性の基礎事項 について述べる。 1.　金属の結晶構造 1.1　体心立方構造，面心立方構造，六方最密構造 　多くの金属の結晶構造は体心立方構造（bcc），面心立方構造（fcc），最密六方構造（hcp）のい ずれかに属している。図1に体心立方構造，面心立方構造，最密六方構造の単位胞を示す。 図1　体心立方構造（a），面心立方構造（b），六方最密充填構造（c）の単位胞モデル 　体心立方構造では，立方晶で，単位胞のすべての角と中央部に1個の原子が存在している。 単位胞の中央に位置する原子と角に位置する原子は，立方体の対角線上に互いに接している。 体心立方構造の単位胞には，1/8の占有となる8個の角に位置する原子と中央部の1個の原子， 合わせて2個の原子が含まれる。体心立方構造では，8個の最近接原子数あるいは接触原子数 をもっており，配位数は8である。また，原子充填率は0.68である。 　面心立方構造の1つの単位胞には，1/8の占有となる8個の角に位置する原子，1/2の占有と なる6個の面心原子，合わせて4個の原子が含まれる。その配位数は12であり，原子充填率は 0.74である。 　最密六方構造の結晶系は六方晶である。単位胞の上面と下面には正六角形を形作る6つの原 子があり，それがその面内の中心にある1個の原子を取り囲む。上面と下面の間にもう1つの 3 第2節 第2節　基材のバルク・表面物性および金属皮膜との密着性 山梨大学　　柴田 正実 はじめに 　電気めっきでは，通電の必要性から電気伝導性のある金属基材あるいは金属被膜を付与した 基材を対象物としてめっきが行われる。これに対し，無電解めっきでは，通電が不要であるこ とから，不導体基材を対象物とするめっきが多い。良好なめっきを行うためには，いろいろな 基材のバルクの物性はもとより，最も注目しなければならない表面物性についての基礎知識が 必要である。本節では，これらの基礎事項について取り扱うとともに，これらの基材と金属皮 膜との密着性について紹介する。 1.　基材の結合の種類 1.1　イオン結合 　イオン化エネルギーが小さい原子Aと電子親和力の大きな原子Bの組み合わせでは， 　　　 のように，それぞれが陽イオンと陰イオンとなる。陽イオンと陰イオンの間にはクーロン力が 働き，化学結合が形成される。このような結合をイオン結合という。この結合はイオン間に働 くクーロン力であるので，方向性がない。イオン結合性の固体中では，1個のイオンは周囲の 他のイオンの作る電場の中で安定となる位置を占めており，さらに全体のエネルギーができる だけ低くなるように陰イオンと陽イオンの配置が決まる。 1.2　共有結合 　2個の原子が1組あるいはそれ以上の電子を共有することによって安定な希ガス型の電子配 置をとる結合を共有結合という。結合は方向性をもち，かつ強固なσ結合によって隣り合っ た原子どうしが互いに結ばれ巨大分子や3次元的網目構造を形成する。 1.3　金属結合 　イオン結合，共有結合とは異なり，金属中の結合電子は局在化せず，比較的自由に移動でき 9 第3節 第3節　無電解めっき皮膜構造・物性および残留応力と密着性