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アメリカの歴史 2003UA0136　木村めぐみ 第Ⅲ部　国民統合の制度と文化 自由と巨大国家の間で　政治思想の伝統 自由：アメリカ政治思想の起源 　17世紀初頭に始まる北米イギリス植民地は、その発展の過程において先住民の部族共同体的秩序とは全く異なるヨーロッパ型の政治秩序を築きあげた。今日のアメリカ政治思想は、ヨーロッパ起源の政治思想を新大陸の環境に適用し、新しい政治秩序を構築するかという現実の模索の中から生まれたものである。初期の秩序形成過程を理解するためのキーワードとして自由と自治が挙げられる。植民地人は、イギリス人であることから恵まれた伝統的「自由」と、北米植民地がイギリスから離れているという地理的位置から恵まれた事実上の「自由」とを同時に享受しており、二重の意味で「自由」な政治社会であったといえる。 自治 北米植民地における政治秩序には当初より自律的?自治的性格が色濃かった。特に自治的傾向を強く示したのはニューイングランドの諸植民地であり、その典型例がタウン?ミーティングであった。住民全員が参加し、公共的事項を討議し、公務に携わるものを選挙で決定するという植民地社会最末端に見られた統治方式である。当時においてそれはまだデモクラシーとは呼ばれておらず、理念や思想として一般化していたわけでもないが、その後アメリカ合衆国へと展開されていくデモクラシーの原像であるといえる。 奴隷制 　英国による初期のアメリカ植民においてヴァージニアにおける植民地経営は重商主義的な経済利益の追求を主目的とする点で特異であった。肥沃な土壌に恵まれ、大規模なプランテーションを展開したこの地域にはイギリス貴族制の断片が移入され、さらに苛酷なプランテーション農作業を担う労働力不足を補うために黒人奴隷が強制輸入された。その結果、アメリカ独立革命までにはヴァージニアをはじめとする南部諸植民地には大プランターと中小プランターからなる支配階級、貧しい白人農民、大量の黒人奴隷からなる階層社会が形成された。 抵抗から独立へ：政治思想の転換 　植民地時代、本国の植民地統治政策に対する植民地側の抵抗は、伝統的な「イギリス人の自由」を根拠として展開された。課税反対運動の目的をさらに飛躍させ、イギリスからの独立を目指すために、新しい政治思想が必要であった。トマス?ペインは『コモン?センス』でイギリスが自由の国であることを否定し、さらに植民地との距離という地政的要因をあげて「独立」を「常識」と訴えた。トマス?ジェファソンの「独立宣言」は、万人が造物主によって平等につくられていること、「生命、自由、幸福の追求」といった自然権を平等に与えられていることを謳いあげている。本国に対する植民地人の自由と権利の根拠を、イギリス人の自由にではなく、普遍的な「自然権」の原則に求めているのである。 邦憲法の思想的背景 　アメリカの「立憲」過程は、「独立」後、13邦それぞれが独自の成文憲法を制定したことに始まる。それら諸邦憲法は、基本原理の一部を17世紀イギリス市民革命から生まれた伝統的な政治思想によっているが、人民主権を身分的特権にではなく、自然権に基づく自由かつ平等な個人の人権に基礎付けられていた。それらはまさしく、ヨーロッパの立憲主義的伝統とアメリカの新しい社会状況との交錯から生まれた、最初の「民主主義的憲法」であった。 『ザ?フェデラリスト』：アメリカ政治思想の誕生 　独立後10年間、アメリカには中央政府は存在しておらず、「規約」の修正による中央政府の強化は独立アメリカ諸邦にとって最も緊急な共通課題となる。この国家的危機の中から、斬新かつ創造的な政治思想に基づくアメリカ合衆国憲法が生まれる。1787年「連合規約」の改正を名目としてフィラデルフィア会議が行われる。その後、との政治的論争によって大きな発展を展開する。今日に至るまでのアメリカ政治思想の展開はこの１年間に生み出された憲法思想と、それに基づいて成立した憲法体制への補遺、補注にすぎない。 Column⑨　トクヴィルの見たアメリカ思想 　19世紀前半の合衆国を訪れ、その政治社会を観察したフランス人アレクシス?ド?トクヴィルが行き着いた一つの結論に「アメリカ人は彼らに固有の哲学を持っていない」がある。これは当時のヨーロッパ知識人から見たアメリカ人の思考法の特質を指摘するにとどまらず、現在までのアメリカ政治思想に一貫して認められる根本的特色を言い当てている。アメリカの政治思想は各時代の個々のアメリカ人が自らの生活の改善やよりよい政治秩序の形成を目指して、現前の自然的条件や社会的状況と格闘する中から生み出されてきた。ヨーロッパ政治思想と比べた場合の非哲学性、非思弁性、非体系性や実際性、具体性、