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アボット感染症アワー ２００６年３月１０日放送 最近の話題 国立感染症研究所細菌第二部主任研究官 加藤 はる ●Clostridium difficile関連下痢症・腸炎● Clostridium difficile は偽膜性大腸炎の原因菌としてよく知られていますが、C. difficile による下痢症や腸炎のすべての症例において、消化管に偽膜形成が認められるわけではあ りません。一方、C. difficile は抗菌薬が誘因となる下痢症あるいは腸炎の主要な原因菌です が、抗菌薬関連下痢症・腸炎の原因がすべて C. difficile によるものではありません。C. difficile 感染症の症状は、軽度の下痢症状から、腸閉塞やtoxic megacolon、さらには死に 至るような重篤な病態まで幅が広いことが特徴です。さらに、本感染症は再発することが 多く、治療を困難なものにしています。一方、本菌は、院内感染の原因菌として重要で、 病院入院症例や老人ホームの入居者における院内集団発生が頻繁に報告されています。 ●Toxin Aとtoxin B● C. difficile の病原性にはtoxin A とtoxin B の２毒素が大きな役割を果たしています。C. difficile には、両毒素陽性株、toxin A 陰性toxin B 陽性株、および両毒素陰性株があり、toxin A 陰性toxin B 陽性株も、両毒素陽性株と同様に消化管感染症を起こします。現在日本の多 くの病院検査室では、C. difficile 感染症の細菌学的診断に、糞便中のtoxin A 検出（ユニク イックあるいはバイダスCDA2）のみを行っていることが多く、toxin A 陰性toxin B 陽性 株による感染症は見過ごされる可能性が少なくありません。Toxin A とtoxin B の両毒素を 検出するキットの早急な導入が期待される理由の一つです。 ●Binary toxinと北米での最近の流行● 最近、話題になっているのが、第三の毒素ともいわれるbinary toxin です。臨床的意義 はよくわかっていませんが、本毒素を産生する菌株が分離された症例は、より臨床的に重 症であったという報告もあります。近年、このbinary toxin 産生菌株による、カナダ、米 国、さらにヨーロッパにおける流行が明らかになり注目を集めています。基礎的検討では、 この北米を中心に流行っている菌株が、toxin A とtoxin B がin vitro で産生量が多いこと、 ガチフロキサシンやモキシフロキサシン等のニューキノロン系抗菌薬に耐性であること、 が報告されています。臨床的背景としては、ニューキノロン系抗菌薬処方の変更の時期か ら集団発生が始まったという報告がいくつかあります。この現象は、新しいニューキノロ ン系抗菌薬が腸内フローラの主構成をなす Bacteroides 属等の嫌気性菌に対する抗菌力が 強く腸内フローラの撹乱を起こしやすいこと、さらに、ニューキノロン系抗菌薬耐性の C. difficile 菌株が選択されること、から説明できるのではないかとされています。 ●日本の病院におけるC. difficile感染症の現状● さて、日本でのC. difficile による院内感染の実態はどうなのでしょうか。日本の臨床現 場ではC. difficile 感染症に対する関心が低いことから、第一に個々の症例が適切に臨床診 断されないことが多く、いまだに実態は多くの病院でよくわかっていません。重篤な偽膜 性大腸炎症例の経験等を契機に注意深く調べてみると、かなり多くの症例が見過ごされて いたことが明らかになることが多々あります。ほとんどの病院で、同一タイプの菌株が病 棟を越えて広がっており、院内伝播しやすい菌であることがわかります。興味深いことは、 複数の病院の入院症例から分離培養された菌株を比較すると、日本の病院で院内感染を起 こしやすいタイプが認められることです。この日本流行菌株は、前述の北米流行株のよう なbinary toxin 産生株ではありません。しかし、北米流行株が病院を越えて、国を越えて、 大陸を越えて迅速に広がっていることを考えると、現在日本の病院において院内感染を引 き起こしていても不思議ではありません。疫学的調査の目的のためにも糞便検体