汉方频用処方解説桂枝茯苓丸②日本赤十字社和歌.PDF

2011 年 3 月 9 日放送 漢方頻用処方解説 桂枝茯苓丸② 大阪大学大学院医学研究科 漢方医学寄附講座 准教授 （現 日本赤十字社和歌山医療センター 心療内科部長） 西田愼二 １．現代における用い方 桂枝茯苓丸は様々な疾患に使用されます。対象となる疾患は、月経困難症、子宮筋腫、 子宮腺筋症、卵巣嚢腫、流産・死産などの後療法、不妊症、更年期障害などの産婦人科疾 患だけでなく、打撲やねんざ、痔核、静脈瘤、睾丸炎、慢性前立腺炎、肩こり、皮下出血、 しみ、じんましん、にきび、冷え症、慢性疼痛、精神疾患など、瘀血証の治療薬として、 非常に幅広く使用されます。 また、他の漢方薬と合わせて投与されることも多い処方です。たとえば、越婢加朮湯、 黄連解毒湯、小柴胡湯、加味逍遙散、四逆散、大柴胡湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、香蘇散、四 物湯、六味丸、八味丸、六君子湯、補中益気湯などがありますが、ときに通導散、桃核承 気湯、当帰芍薬散などの類似した効能を持つ処方と組み合わせることもあります。 そして桂枝茯苓丸加薏苡仁は、皮膚症状により強い効果や、水腫に対しての効果が期待 できます。私は子宮および付属器切除術後の下腿のリンパ浮腫や静脈瘤などに対してこれ を投与し、よい手応えを得ています。 ２．EBM 山本らは、子宮筋腫あるいは子宮腺筋症と診断された24 名に対して、ランダム化比較試 験を行い、GnRH アナログ単独群、GnRH アナログおよび桂枝茯苓丸併用群の 2 群に分けて、 その効果について検討しています。効果の判定は画像上の腫瘍縮小率で、50％以上を著効、 50-0％を有効、0％以下を無効としました。その結果、4ヵ月の時点では、GnRH単独群の著 効率10％に比べて、GnRHおよび桂枝茯苓丸併用群は42.9％と高く、縮小効果が高い傾向が みられたものの、8，12ヵ月では差はみられませんでした。なお、子宮筋腫のみの評価では、 4 ヵ月の時点で GnRH 単独群の著効率が 0％であるのに対して、GnRH および桂枝茯苓丸併用 群では 50％であり、有意差も認めました。ただし 8，12 ヵ月では差はなく、短期間の治療 効果としては桂枝茯苓丸の併用は臨床的に効果があるようです。 次に、田中らは、更年期症候群とされた43名の女性に対して、ランダム化比較試験を行 い、桂枝茯苓丸単独群、桂枝茯苓丸およびトフィソパム併用群として、その効果について 検討しています。効果判定は簡略更年期指数（SMI）で、その数値が 25 点以下になったも のを著効、25点以下にならなくても治療前に比べて35点以上の低下がみられたものを有効、 6-34 点の低下をやや有効としました。その結果、著効および有効について 2 群間に差はみ られなかったものの、効果発現の時期が桂枝茯苓丸併用群は早い傾向がありました。 このほかにランダム化比較試験ではありませんが、不妊症に対して、持続性無排卵性不 妊症に対して75％の有効率、中枢性第1度無月経に対して40％の有効率であり、無排卵性 不妊症の妊娠効果については23.1％との報告があります。 このほかに男性不妊で精子濃度と運動率の不良な者を対象として十全大補湯と桂枝茯苓 丸を併用したところ、有効率は、精子濃度は60％以上、精子運動率は59.4％であったとい う報告があります。 また、健常人に投与したところ、眼球結膜のビデオ顕微鏡観察によれば、血管内径の増 加と血流量の増加を認めています。この際には収縮期・拡張期血圧と脈拍数に変化はなく、 末梢血管拡張作用と血液粘稠度低下の両作用によるものと推定されています。別の研究で は、健常人に対して投与したところ、トロンボキサン合成系活性が低下したという報告が あります。また脳脊髄血管障害患者に投与したところ、ヘマトクリットと全血粘稠度の低 下が認められたこと、慢性肝炎患者で小柴胡湯と桂枝茯苓丸の併用で高い有効率が得られ たこと、そして慢性前立腺炎様症候群に投与したところ、高い有効率であったとの報告な どがあります。 ３．処方適用のポイント 桂枝茯苓丸は瘀血証の標準治療薬と申しましたが、それではどのような原因で瘀血は生 じるのでしょうか。瘀血の原因は非常に多く、加齢・外傷・炎症・高熱・出