動脈硬化プラークの分子イメージング.PDFVIP

総説 冠疾患誌 2011; 17: 114–120 動脈硬化 プラークの分子イメージング 田原　宣広，田原　敦子，新田　良和，児玉　紀洋，溝口ミノリ，今泉　　勉 Tahara N, Tahara A, Nitta Y, Kodama N, Mizoguchi M, Imaizumi T: Molecular imaging of atherosclerotic plaque. J Jpn Coron Assoc 2011; 17: 114–120 I．はじめに II．炎症 と動脈硬化 　近年，生活習慣や食生活の欧米化に伴い，肥満，脂質 　1980 年代後半に急性心筋梗塞の責任病変の大半は発症 異常，高血圧，耐糖能異常が急増し，動脈硬化を基盤と 前の冠動脈造影で中等度以下の狭窄度を示すという報告 する脳血管疾患や冠動脈疾患の発症頻度が増えている． がなされ，冠動脈に存在した脆弱な不安定プラークが突 動脈硬化は，脳梗塞や急性冠症候群など重篤な合併症を 然破綻し，内容物が血流に接触することで引き続き血栓 引き起こし，その死亡率は悪性新生物と並んでわが国の が形成されることにより冠血流が急激に制限されるメカ 死因の上位を占めている．近年，本邦は類をみない高齢 ニズムが明らかになった1–3） ．動脈硬化病変から直接的に 化社会へと突入しており，今後も動脈硬化性疾患の急激 得られた材料を用いて組織学的解析が行われ，破綻しや な増加が予想される．したがって，動脈硬化を早期から すい不安定プラークは脂質が豊富で周囲を覆う線維性被 正確に発見し，その合併症である脳梗塞や急性冠症候群 膜が薄く，リンパ球やマクロファージなどの炎症細胞が を予防・治療していくことは，われわれ循環器医にとっ 浸潤していることが病理学的特徴として明らかにされて て，きわめて重要な臨床課題と考えられる． いる．また，ヒトの動脈硬化巣で慢性炎症細胞であるリ 　近年，動脈硬化は慢性の炎症性疾患と認識され，炎症 ンパ球やマクロファージが活性化状態を示し，末梢血中 が病変の発症・進展に関与し，プラークの破綻にも関与し の高感度 C 反応性蛋白（C-reactive protein: CRP）や炎症性 ているとされている．破綻しやすいプラークは不安定プ サイトカインなど臨床的炎症マーカーが急性冠症候群な ラークと呼ばれ，脂質や炎症細胞成分に富んでいること ど動脈硬化性疾患のリスク評価に有用であることが報告 が知られている．プラークの不安定性を正確に評価し， 4–6） されている ． その経時的変化を評価できるモダリティの開発が望まれ 　血管内皮障害に引き続いて起こるマクロファージの集 ており，multislice computed tomography（MSCT）， 簇は，動脈硬化プラークにおいて最も重要な病理組織学 magnetic resonance imaging （MRI），血管内超音波 的所見であり，プラーク形成のみでなく不安定化にも深 （intravascular ultrasound: IVUS），血管内視鏡，光干渉 7, 8） く関わっていると考えられている ．また，急性冠症候 断層法（optical coherence tomography: OCT）などを用い 群の発