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高齢者の神経障害性疼痛 東京大学医学部附属病院緩和ケア診療部 部長 / 医学部准教授 住谷　昌彦 の興奮が末梢神経を経て脊髄から大脳へと伝 Ⅰ. はじめに 達されて認知される痛みのことで、侵害受容性 疼痛と呼ぶ。さらに、炎症に伴って起こる疼痛 　ヒトの知覚系は身体並びに身体外の環境を （炎症性疼痛）も、顆粒球やマクロファージな 知るためのシステムであり、体性感覚、特に痛 どの炎症細胞からプロスタグランジン類やロイ 覚系は生体の防御系として重要である。しか コトリエン類などの炎症物質が神経終末上の侵 し、ときには「痛み」そのものが生体にとって 害受容器を興奮させることによって起こる疼痛 多大な侵襲となることもあり、「痛み」は“組織 であるため、侵害受容性疼痛と考えられる。臨 の実質的ないし潜在的な傷害と関連した、ある 床的な侵害受容性疼痛疾患の例としては、骨 いはこのような傷害と関連して述べられる不快 折など外傷による疼痛や術後創部痛、がんの な感覚的、情動体験”と定義されており、侵 臓器浸潤などによる終末期がん性疼痛、変形 害刺激による危険や身体の器質的異常の警告 性関節症や関節リウマチ、動脈硬化による血流 として生体防御的に働く生理的な疼痛だけでな 障害から四肢虚血になって起こる虚血性疼痛 く、生体防御系としての意義を持たない病的な などによる疼痛が侵害受容性疼痛として挙げら 疼痛がある。生理的疼痛は、正常組織を実際 れる。一方、侵害受容を伴わずに知覚される に傷害するあるいは傷害する可能性のある刺激 痛みは病的疼痛と総称される。病的疼痛には、 （侵害刺激）が末梢組織に加えられた際に、末 自発痛だけでなく触刺激によって惹起される疼 梢組織中に存在する侵害受容器が興奮し、そ 痛（アロディニア：allodynia）や侵害受容に比 プロフィール Masahiko Sumitani 最終学歴　2008 年　大阪大学大学院（医学博士取得）　主な職歴　2000 年　大阪大学医学部附属病院麻酔科研修医　2008 年　東 京大学医学部附属病院麻酔科?痛みセンター助教　2012 年　同?病院医療機器管理部部長 / 医学部講師　2014 年　同?病院緩和ケア 診療部部長 / 医学部准教授　現在に至る　専門分野　疼痛医学、麻酔科学、緩和医学 173 高齢者の神経障害性疼痛 して過大に疼痛が知覚される痛覚過敏も含ま り、加齢性の筋骨格系変性や神経障害によっ れる。病的疼痛の代表的な病態としては、帯 て慢性疼痛の罹患率が増加すると考えられて 状疱疹後神経痛や視床出血後の視床痛、脊髄 いたが、高齢者ではこの痛みの認知システムの 損傷後疼痛、がん化学療法誘発性ニューロパ 機能変調によって痛みをより感じやすくなる結 チー、四肢切断後の幻肢痛などのように神経障 果、痛みの愁訴が増える可能性が考えられる。 害が原因で自発痛や痛覚過敏、アロディニアが 中枢機能障害性疼痛は身体の器質的な要因が 起きる神経障害性疼痛と、うつ病患者や身体 なくても起こるとは言え、精神情動的問題が 表現性障害（疼痛性障害）患者などが訴える 主因とする心因性疼痛とは明らかに異なる概 心因性疼痛（psych