原子力発電から生じる長寿命核種の核変換（消滅処理）.pdfVIP

原子力発電から生じる長寿命核種の核変換（消滅処理） 　原子力発電所は、エネルギー資源輸入国である我が国にとって、また、地球温暖化ガスの放出量を増やさないためにも、今後とも重 要な地位を占め続けると考えられます。しかし、発電の後に生じる長い寿命をもつ放射性廃棄物の処分は、容易ではありません。特に、 高レベル廃棄物中に存在するネプツニウム、アメリシウム、キュリウムなどのマイナーアクチノイド（MA）と呼ばれる核種は、アル ファ線を放出し非常に寿命が長いものがあるため、処分する際には細心の注意を要します。このため、数万年以上の極めて長い寿命を もつMA核種を、核反応により変換して、もっと短い時間で減衰するようにできないか、という研究がこれまでいろいろ行われてきま した。長寿命核種の消滅処理とも呼ばれる方法です。その有力な候補の一つについて、最近の研究計画を紹介します。 　現在、高エネルギー加速器研究機構（KEK）と日本原子力研究所（原研）は、茨城県東海村で中性子科学の広範囲な研究のために、 共同して大強度陽子加速器施設の整備を計画しています。この施設の一つとして、核変換実験施設の計画があります。そこでは、加速 器からの高エネルギー陽子を用いて、長寿命核種を効率的に核変換するための技術開発が行われています。この計画が目標とする、加 速器駆動核変換システム（ADS）、と呼ばれる核反応装置について説明します。 　加速器からの高エネルギー（10─15億電子ボルト）陽子1個を、鉛?ビスマス合金でできているターゲット（標的）に当てると、 「核破砕反応」と呼ばれる核反応が起き、鉛またビスマスの原子核が数十個の破砕核となって壊れるとともに、平均20─30個の高エ ネルギー中性子を発生します。この高エネルギー中性子が、近くに置かれたMAの原子核に衝突すると、「核分裂反応」が起き、その 原子核が平均2個に分裂して、寿命の短い核または安定な核になると同時に、約3個の高エネルギー中性子を発生し、さらに核分裂反 応を進めます（図1）。これらの破砕核や核分裂はかなり複雑な原子核反応なので、核反応装置（ADS）を設計するには、十分な研究 開発が必要となります。 　ADSは、高エネルギー加速器を運転し、さらに余剰の電力を、外部に供給できるでしょう。図2は、15億電子ボルト、2万2千─3 万kWの陽子ビームを鉛?ビスマスターゲットに入射し、80万kWの熱出力を得る、実用規模のADSの概略の構造です。この装置では、 2.5トンのMAを入れて1年間運転したときに生じる長寿命MAを核変換できます。 　現在、このような加速装置を使った核変換による長寿命核種の減量の研究開発は、フランス、ベルギー、米国、韓国、ロシアなどで も進められ、また、国際原子力機構、OECD／NEAなどによる国際協力の活動も広がりつつあります。（佐藤　章一） ※本稿執筆にあたり、日本原子力研究所東海研究所中性子科学研究センター高野秀機次長から資料の提供を受けました。ここに謝意を 表します。