食品の安全に対する関心の高まりと.pdf

食品の安全に対する関心の高まりと 中小食料品製造業の取組み課題 はじめに 消費者の食に対する安全?安心への関心が高まり、これを受けて行政や食品業界におい ては、消費者の食に対する不安感?不信感への適切な対応が課題となっている。 食料品製造業者を対象としたアンケートの結果を見ると、牛肉トレーサビリティや残留 農薬ポジティブリスト制など法制化されている食品を取扱う企業ばかりでなく、それ以外 の食品を取扱う企業においても積極的に安全管理体制を整える方向にある様子がうかがえ る。しかし、同時に設備投資や人材育成など時間とコストを要し、負担感があるという結 果も出ている。 こうした状況を踏まえ本レポートでは、食料品製造業者の食の安全への取組みを中心に 現状と課題を把握し、対応策を検討するとともに、安全への取組みの活かし方を探ること とする。 第１章では、消費者及び「食の安全?安心」に関わる行政や食品業界の最近の動向につ いて概観する。 第２章では、具体的な企業事例をもとに、中小食料品製造業の事業展開と安全?安心へ の取組みの特徴をまとめ、事業展開への活かし方を探る。 （総合研究所 秋山 陽子） 要 旨 「食の安全」を積極的に採り入れている中小企業の事業展開をまとめてみると、販路? 販売先の違い、さらに加工レベルと生産量の点などに応じ、それぞれ特徴的な取組みが行 われていることがわかる。 消費者は安全を確保するために、安全に関する情報を食品製造業者に対して求める一方、 信頼できる販売業者からの購入を重視している。このため、販売業者等は自社の取組みと あわせて扱う食品の生産工程において「安全」が確保されていることを確認しておく必要 性を強く持っている。したがって、販売業者等が介在するタイプの製造業者は、安全確保 への取組みを販売業者等に明示しておく必要がある。たとえば、衛生的な工場設備の充実 やISO、HACCP 等の第三者の認証を取得するといった取組みである。 加工レベルと生産量の違いに応じた取組みをみると、生産量が多く包装を含めた加工レ ベルが高い場合では、機械化による安全のつくり込みが行われており、相対的に加工レベ ルが低く加工に人手を要する場合では、原材料自体の安全性を示すトレーサビリティなど の充実に力を注ぎ、設備面では工場自体の水準を高めることで安全の水準維持が図られて いる。 直販している場合は、オリジナル高級品や伝統技術で差別化を図る等、ブランドとして の認知度を高める中に安全への取組みを生かしている事例もある。 このような生産形態や加工の特性等に応じた「食の安全」に対する取組みは、対外的な 信用の強化といった効果ばかりではなく、従業員の技能向上、経験?ノウハウの蓄積等と いった効果を生み出している。 「食の安全」を確保する取組みは、当然コストを伴う。したがって、自社の経営資源の 持つ強みを活かした事業展開を徹底し、「食の安全」を確保するコストを賄える商品?事業 戦略を実行することが必要である。 この商品?事業戦略も自社ブランド主体かOEM 生産主体かといった企業の状況に応じて 異なってくる。たとえば、自社ブランド製品主体の企業では、ブランドの持つ価格プレミ アム効果を活かし、新商品開発を行うことによって収益を確保し、コストを賄っている事 例、あるいは、ブランドの持つ繰返し購入効果（ロイヤルティ効果）を活かした廉価?薄 利多売によって収益を確保し、コストを賄っている事例がある。 OEM 生産主体の企業では、ブランドオーナーと連携して積極的な商品開発を行うことで 収益を確保している事例、あるいは、販売先のニーズを具体化した提案を積極的に行うこ とで販売先?生産量を増加させることによって収益確保を図っている事例などがみられる。 「食の安全」に取組むに当たり、新たな経営資源を蓄積する必要に迫られるケースもあ る。この場合であっても、従業員がその取組みの必要性を理解していれば、士気が高まり、 それが新たな事業活動の展開への契機ともなりうる。 食品メーカーにとって、「食の安全」の確保への取組みはいまや不可欠のものである。そ れを経営革新につなげていくような積極的な取組みが求められている。