分析化学-环境省.PDFVIP

分析化学 著者：佐々木裕子（東京都環境科学研究所・分析研究部） １．分析の背景 「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」（化学物 質排出管理促進法、いわゆる「PRTR 法」）の施行に伴い、同法の対象事業者は、PRTR 対象化学物質の大気、水、土壌中への排出及び下水道への放流（移動）や廃棄物としての 移動の量を自ら把握し、行政庁に報告することとなっている。 しかし、事業形態によっては、原材料の性状等の影響により分析による年間の排出量・ 移動量把握が実際的でない場合や分析試料の採取が困難な場合がある。また、対象となる 指定化学物質のなかには、分析方法が十分確立していない化学物質もある。 そこで、PRTR 法における化学物質の排出量、移動量把握の仕組みには、各事業所の形 態や対象物質その他の条件から正確性や効率性を考慮して、実測法を含めた下記の 4 種の 方法から選択できることとなっている。 ① 物質収支（工程における製造量、取扱量、搬出量などから算出） ② 実測（排ガス、排水、廃棄物中の化学物質の量または濃度を測定し、発生量をかけ て算出） ③ 排出係数を用いた算出（取扱量に、取扱量と排出量の比をかけて算出） ④ 物性値を用いた算出（飽和蒸気圧、水溶解度などから予測） ４種の算出方法のなかで、②の実測により排出量・移動量を把握する方法は、ダイオキ シン類対策特別措置法、水質汚濁防止法、大気汚染防止法などの既存の法律で化学物質の 量、濃度の測定が義務づけられているケースが該当するが、これ以外にも自主的に分析が 実施されることが想定される。そこで、本テキストでは、第一種指定化学物質 354 種のな かでも実測によって報告される可能性が高い物質を中心に、分析方法について述べること とする。 なお、国においても PRTR 法第 9 条に基づき、経済産業大臣及び環境大臣は、化学物質 の環境中への排出量把握のため、届出対象外事業所や非点源と呼ばれる家庭、農地、自動 車など各種の発生源からの排出量の算出（推計）を行う。この推計にも、環境モニタリン グその他の分析を伴う調査結果が活用される。 1 ２．PRTR 制度における分析 分析には、含まれている物質が何かを明らかにする定性分析と、対象物質の濃度、量を 明らかにする定量分析がある。PRTR 制度における分析は、量の把握を目的とするのに加 え、事業所における使用原材料、資材等から対象化学物質がある程度分かっている分析の ため、定量分析が主体となる。しかし、排ガス、排水、廃棄物中など測定妨害物質が存在 する試料が対象となることから、測定対象の誤認を生じないよう物質の同定、すなわち定 性分析の側面も無視することはできない。 また、PRTR 制度では、各化学物質の分析方法は特に定められていない。そこで実測を 行う場合には、確立された分析方法の中から、媒体や濃度レベルなどを考慮し、適切な分 析方法を選ぶことになる。ただし、実測による算出の場合には、分析精度が排出量・移動 量の算出精度となるため、データの信頼性が確保できる方法を選ぶ必要がある。 ３．分析対象 ３．１ 対象化学物質 排出量、移動量の把握を必要とする化学物質は、PRTR 法第 2 条で第一種指定化学物質 として定められている354 種の化学物質である。これらの化学物質は、以下の 3 要件のい ずれかに該当し、既に広範囲な地域に継続して存在することが見込まれる点から指定され ている。 ① 人や生態系に有害なおそれのある化学物質 ② 自然作用により①に該当する物質に変化する化学物質 ③ オゾン層を破壊する化学物質 第一種指定化学物質には、無機化学物質と有機化学物質との両方が含まれる。 無機化学物質、有機化学物質は、それぞれの構成元素、化学構造、物理化学的特性や、 含有する媒体、濃度レベルによって適切な分析方法を選ぶ必要がある。さらに、各化学物 質の対象範囲は、人や生態系への有害性などの観点で選定されているため、表１に示した 例のように一律ではない。分析方法が、それぞれの化学物質の対象範囲を正しく測定して いるかどうかの注意が必要である。化学物質を構成する化合物群を限定して分析できる適 切な方法がない場合は、各