海洋微生物と地球环境变化.PDFVIP

第1回 8月21日 （月） 海洋微生物と地球環境変化 講師 ：大学院地球環境科学研究院 准教授 鈴木 光次 1.はじめに 海水が塩辛いことはよくご存知のことと思いますが，天然海水中には人間の肉眼では よく見えない微小な生物（微生物）が非常に多く生息していることをご存知でしょうか． 例えば，皆さんが海水浴場に行き，海で泳いでいる時に誤って海水を小さじ一杯ほど飲 み込んでしまった時でも，その海水中には少なくとも100万細胞以上の微生物が入って いるはずです．海の微生物には，主にウイルス，バクテリア （細菌），植物プランクト ン，動物プランクトンが含まれます．一般に，日本の海水浴場の海水はほぼ無色透明で すが，人間活動により河川から窒素やリン等の栄養物質 が大量に海に供給された結果，海水の富栄養化が起こる と，植物プランクトンが異常発生し，海水が赤色等に変 色します．この現象を赤潮といいます （図1）．幸いなこ とに北海道では赤潮を見聞きすることが比較的少ない と思いますが，世界的には未だ赤潮が深刻な問題となっ ており，赤潮による水産被害が数多く報告されています． その典型的な例として，赤潮により養殖場の魚介類の窒 息死があります．これは，大量発生したプランクトン自 身の呼吸および死滅したプランクトンがバクテリア （細 菌）により活発に分解される過程で，海水中に溶けてい る酸素が大量に消費されてしまうことにより起きます． 図1. メキシコにおける渦鞭 時には，魚介類のえらにプランクトンが詰まることによ 毛藻 （Noctiluca sp.）による 赤潮．引用 ：Marine Biology り，魚介類が窒息死することもあります．赤潮を形成す th 6 edition (eds. P. Castro M. る一部の植物プランクトンが産出する毒素が魚介類に E. Huber), McGraw-Hill Higher Education, 2007. 蓄積し，それを食べる人間にも健康被害を及ぼすことも 知られています．しかし，海の微生物が人間にとって悪さばかりをしているわけではあ りません．本講義では，海の微生物が地球環境に果たしてきた役割をご紹介するととも に，今後の地球環境変化により海の微生物がどのような影響を受ける可能性があるかに ついてもお話したいと思います． 2.地球の歴史と海洋微生物 地球は現在の約46億年前に出来ました．そして，約38億年前の原始の海において， 生命 （非常に単純な体を持つ単細胞の微生物）が初めて誕生しました．なお，この時代 では，現在の地球とは異なり，地表付近には，酸素 （O）が存在せず （もしくは，存在 2 しても極めて微量でした），また生物に有害な紫外線が太陽から地表に多量に到達して いたと考えられています．一方，水深の深い海では太陽からの有害な紫外線が届きにく く，最初に生まれた微生物は海水に溶けている有機物を体内に取り込んで生育していた と思われます．その後，約 27億年前頃から地球表層に酸素が存在するようになりまし た．この酸素を作り出したのは海水中に生息するラン藻 （シアノバクテリア）という光 合成を行う細菌です．光合成は，二酸化炭素と水と太陽からの光エネルギーを使って， 有機物と酸素を合成します．本来，酸素は強い酸化力を持った毒性の高い気体ですが， この時代以降，ラン藻を含む一部の生物は酸素を利用した代謝機能を持つように進化し たと考えられています．ラン藻が作った酸素は海水に溶け込むとともに，その一部は原 始の海から大気に逃げていったはずです．そして，約 23億年前以後，原始大気中にも 酸素が多量に存在するようになると，生物に有害な太陽からの紫外線の多くは，酸素と 光エネルギーにより生成したオゾン （O）によって遮断され，地表に届かなくなり始め 3 ました．さらに大