消化器系歯.PDFVIP

この中の写真13-01～13-11 及び 13-19 は、東北大学解剖学教室所蔵の 標本の写真である。貴重な標本の撮影を許可された同教室の御好意に対し て心からの感謝を捧げる。 歯は食物を噛み砕き、すりつぶすために発生した器官で、口腔の上壁（上 顎）と下壁（下顎）から相対向するように生えている。 歯のうちで口腔に露出している部分を歯冠（Corona dentis）といい、隠れて いる部分を歯根（Radix dentis）、両者の境の部分を歯頚（Collum dentis）とい う。歯の中軸部には血管と神経に富む非常に疎な結合組織（歯髄）をいれた 歯髄腔があり、そのうちで歯根にある部分を歯根管という。 歯の構造上の主体をなすものは象牙質（Dentin）と呼ばれる特殊な骨質で ある。この象牙質の表面は、歯冠では厚いエナメル質（Enamelum）によって、 歯根では薄いセメント質（Cementum）によって被われている。 歯根は上顎骨および下顎骨の歯槽突起にある凹み（歯槽）にはまっており、 歯根と歯槽の間に張り渡された丈夫な結合組織繊維によって歯槽の中央部 に保持されている。この結合組織を歯根膜（Periodontium）という。 歯の微細構造を研究する方法としては、骨の場合と同様に、砥石で薄く研 いで研磨標本を作って観察するのと、酸でCa を溶かして（脱灰して）薄切切 片を作って観察するのが主なものである。ただし、エナメル質はその96% 以 上が無機質であるので、普通に脱灰すると溶け去って、痕跡も残らない。 1 これはヒトの切歯の縦断研磨標本をカルボールフクシンで染めたものであ る。13-01 から13-06 までは同じ標本である。 歯の構造上の主体を作っているのは象牙質(dentin) である。象牙質の中 軸部には血管と神経を多く含む疎な結合組織である歯髄をいれた歯髄腔が あり、そのうちで歯根を貫いている部分を歯根管という。象牙質には、その内 面から始まって歯髄腔の輪郭線にほぼ直角に走り、象牙質の表面に達する 無数の細管が認められる。この細管を象牙細管という。象牙細管の直径は歯 髄腔に近いところでは3～4μm、象牙質の表面近くでは約 1μm である。象牙 細管は走行中に多数の側枝を出し、近隣の象牙細管の側枝と吻合している。 歯冠では象牙質の表面をエナメル質(enamelum) が被っている。エナメル 質は生体内で最も硬い組織で、その約96% が無機質で、有機質は約2% に 過ぎない。エナメル質は無数のエナメル小柱と、その間を埋める小柱間質と で構成されており、両者ともに非常に密につまった燐灰石の超微細結晶でで きている。象牙質とエナメル質の接合部には象牙エナメル接合面が見られる。 歯根では象牙質の表面はセメント質(cementum) で被われているが、これ は歯頚（矢印の部分）ではごく薄く、歯根尖に近づくにつれてやや厚くなる。 セメント質の構造は骨とほぼ同じで、骨細胞に相当する多数の突起をそなえ たセメント細胞と、その間を埋める石灰化した基質からできている。 2 これは13-01 の歯冠の部分の拡大である。 エナメル質は無数のエナメル小柱と、その間を埋める小柱間物質とで構築 されている。両者ともに燐灰石の超微細結晶でできている。エナメル小柱は 横断面が鱗形をした直径4～5μm の小柱で、その縦断面には約4μm の間 隔で繰り返す横線が見られる。これは石灰化の日周変化によるものと考えら れている。 エナメル小柱は象牙エナメル接合面から起こって、先ずこの面に直角に走 り、やがてゆるやかな波状を描いて全体としては放射状に走り、表層では歯 冠の表面に対してほぼ直角をなしている。 歯冠の縦断研磨標本であるこの標本では、象牙エナメル接合面のある一 点から起こり、歯冠の頂を頂点とするループを描いて、反対側の象牙エナメ ル接合面に達する線が観察される。これをレチウス繊維という。 3 これは13-01 の歯頚（矢印）の上下に続く部分の