放射线と健康管理册子.DOC

はじめに 　2011年3月11日、午後2時46分。それは今まで感じたことも聞いたこともなかった地鳴りとともに始まった。いつ果てると知れない大きな揺れが続いた。立っているものはすべて倒れ、壊れるものは壊れ尽くしてしまったのではと思えるような大きな揺れであった。後の報告でマグニチュード9.0と知った。 これが始まりであった。この地震?津波により、福島第一原子力発電所の炉心冷却のための非常電源装置がまったく稼働しなくなり、第一原発1号機から4号機は炉心の温度があがり、何時核融解が起きても、そして最悪チャイナシンドロームが起きても不思議はないような状態だったようである。格納容器内の水素濃度上昇を防ぐために、ベント作業も試みられたが、効果がなかったのか、3月12日に1号機の水素爆発、14日には3号機、15日には2号機の水素爆発が起きてしまった。爆発により格納容器内の放射性物質が拡散し、現在直面しているような福島県内の放射能汚染という事態に陥ってしまったわけである。 　今回の震災、そして原発事故はいろいろなことを我々に教えてくれたが、それらを反省し検討しなおして、今後またこのような災害が起きた時に対処できるようにしておかなければならない。なかでも今後福島県民として生き、医療に従事していく我々医療関係者にとって放射能問題は今後の対応を考えるうえで、勉強しなければいけない分野であった。少しずつは放射能、放射線について知識を得てはいたが、今後の対応に役立つようなまとまった知識を得ているのかどうかは確信できていない時に、田村市の保健衛生課から放射線教室の講演の話をいただいた。田村市5行政区での講演により、自分の中で咀嚼し得なかった知識をまとめる好機と思い、お引き受けした。 都路、常葉、滝根、大越、船引という順で5つの行政区で、それぞれ約1時間20分ぐらいの講演をさせていただいたが、受講者からの質問への答えなどを講演内容に加えたものを、今回この冊子にまとめてみた。日々新たな情報が入るので、あくまでも講演を行った時点での知識にもとづいたものである。放射線の専門家ではないので、あくまでもこの地域の住民の一人として、そして医師として、ともに暮らす人々と知識を共有しようとしてまとめたものである。今後、得られる新たな情報?知見を本冊子に書き加えていただき役立てていただきたい。 　本冊子では、まず福島第一原発事故と検証、そして拡散された放射性物質から出る放射線の基礎知識、それら放射線による健康影響 （急性障害、晩発性障害：発がん、生活習慣病、加齢 ）、放射線の防護（外部被ばく、内部被ばく、除染）、そして最後に今後の健康管理（心のケア、甲状腺検査、健康診査）について述べていく。詳細な情報が必要な方のために、巻末に参考資料の原典を記載しておいたので、ご利用いただければと考える。 福島第一原発事故 　世界に“Fukushima”という名をとどろかしめた福島第一原発事故は3月11日の大地震、津波によって、炉心を冷やす冷却系ポンプの非常電源さえも動作しなくなったためという、防ぎようがあったのではと考えられる、いかにも初歩的な危険回避対策の不備が原因であり、人災と言われても仕方のないものと考えます。 　3月12日の1号機の水素爆発にはじまり、原発周囲の避難区域は徐々に拡大し、14日の3号機の水素爆発、3月15日の2号機の水素爆発と思われる爆発、4号機の使用済み燃料プールでの水素爆発と思われる爆発で、周囲30ｋｍ範囲でも自宅退避の避難命令がでたことは記憶に新しいです。3月15日ごろから、各自治体は環境放射線量を測定するようになっていますが、15～17日にかけてその線量は急激に上昇しています。しかも原発を中心として、同心円状にその線量が減衰していくのではなく、地域ごとにその線量が異なっていることが当初からわかっていました。たとえば、3月17日の時点で、原発に近い小野町（第一原発から西南西約39km）では0.94マイクロシーベルトで、やや遠い三春町（西約48km）では2.33マイクロシーベルト、田村市（西約40km）で1.27マイクロシーベルト、さらに遠い郡山市（西約60km）では3.29マイクロシーベルト（3月25日測定値）、福島市（北西約62km）で8.96マイクロシーベルトと確認されていたことは、原発そのものからの影響ではなく、放射性物質がさまざまな地域に吹き飛ばされていって、それが降下して周囲に放射線を放出していたと考えるべきでしょう。ちなみに、飯館村では3月15日の午後2時には0.14であったものが、午後4時には22.7、午後6時20分には44.70マイクロシーベルトまで急激に上昇しました。当初の数値から、地域別に各種対策をたてるべきであったということはあきらかです。