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PAGE 5 福島第一が世界の原子力政策に与えた影響――米国はテロ、ドイツは飛行機墜落を想定 2011年05月30日　大前研一 　菅直人首相は5月18日、定期点検などで停止している原発について、「緊急的な安全措置が講じられたものは、従来の方針にしたがって安全性が確認されれば、稼動を認めていくことになる」と述べた。 世界で新規建設計画の見直しや安全強化の動き 　福島第一原子力発電所の大事故を受け、菅首相は唐突に中部電力?浜岡原子力発電所（静岡県御前崎市）の全基停止を要請し、それに成功した。浜岡原 発停止要請に対して少なからず批判もあったが、国民の6割以上が賛成しており、そこで懸念されたのが「原発停止ドミノ」だった。今回の「安全性が確認され れば稼動を認める」という発言は、これを防ぐ狙いがあったものと思われる。 　私は菅首相の発言を聞いて、福島第一原発事故に対する「反省の言葉がない」と感じた。まずは国民に向かってきちんと反省の言葉を語ってもらわなけ れば困る。そのうえで、停止中の原発を再稼動する場合には、何をチェックしたのか、それによって安全性がどう高まったのか、今回の事故からどんな教訓が生 かされたのかをきちんと説明してもらい納得できれば再稼動を認める、と発言すべきだったと思う。 　福島第一原発の事故は、世界の原子力政策に大きな影響を与えていることを忘れてはならない。新規建設計画の見直しや安全対策の強化などが全世界規模で進めざるを得ない状況になっている。 　下は主要国で建設中および計画中の原発の数をグラフにしたものである。 　抜きん出ているのは中国だ。現在11基の原発を運転中の中国は、建設中が30基、計画中が23基を数え、2位のロシアを大きく引き離している。おそらく中国は、福島第一原発の成り行きを最も注視している国の一つと言えるだろう。 日本は原子力技術を保持し続けられるか 　中国ほどではないにせよ、経済成長を続けているインド（現在17基運転）も建設中が8基、計画中が4基となっている。日本はといえば、建設中が4基、計画中が11基。しかし、少なくとも計画中のものは、おそらく日の目を見ることはないだろう。 　米国に目をやると、スリーマイル島原発事故以来、原発建設計画は長い間凍結されていたため建設中はゼロ、計画中のものが8基ある。このうちテキサス州に増設予定だった2基の原子炉は日本メーカーが受注していたが、福島第一原発の事故を受けてキャンセルになった。 　前掲のグラフに記された原発数を合計すると160基余りになる。テキサス州の原発のようにキャンセルが今後も続くだろうから、建設中および計画中 の半分は大幅な見直しを余儀なくされるのではないか。原発建設では日本の3社（三菱重工、東芝、日立製作所）と仏アレバ社が世界市場を事実上、独占してい ることを考えれば、日本メーカーは今後、数十基もの原発建設の機会を失うことになる。 　そうなると、国策として原子力技術の保持にいかに努めるべきか、あるいはいっそのこと諦めるべきか、という議論が浮上してくる。現状では、これまでのペースで日本が原子力技術の開発を進めていくことは世論が許さないだろう。だからといって、きっぱりとやめてしまえば経済に与える影響があまりにも大きい。これは日本政府に突き付けられた難しい問題と言えそうだ。 NRC、米国原発のテロ対策は「訓練不足」と指摘 　米国の動きについて見てみよう。 　米原子力規制委員会（NRC）は20日、全米の原発を対象に行った緊急検査の結果を発表した。米国には65の原子力発電所があり、104基の原子炉が稼働中だが、NRCによると全電源喪失への備えで2原発の不備が見つかったほか、津波?洪水対策で2原発、テロ対策で9原発に不備が見つかったという。いずれも「主に作業員の訓練上の問題」と指摘している。 　米国では数年前から、原発がすべての電源を喪失することを想定に入れている。その意味では「全電源喪失で2原発に不備」というのは問題ではある が、福島第一原発のように、せっかく手配した電源車が電圧の違いで使い物にならなかったというお粗末さに比べれば、はるかに予行演習ができている。今回の 原発事故を教訓にして対策を進めていけば、安全性は大きく高まるはずだ。 　米国らしさがうかがえるのは「テロ対策で9原発に不備」という項目である。2001年の9.11同時多発テロの首謀者であるウサマ?ビンラディンを殺害し、その報復の可能性が否定できない米国にとってテロ対策は現実的な問題である。 　原発のテロ対策というと、建物の強化やセキュリティーチェックの厳重化などのほかに、中央制御室を二つ設けることが行われる。通常の中央制御室が テロリストに占拠された場合、それを遮断し、別の極秘の中央制御室