福祉哲学とは何か「超越論的次元を踏まえた社会福祉Author(s)Citationメタフュシカ.42P.pdfVIP

Osaka University Title 福祉哲学とは何か : 「超越論的次元を踏まえた社会福祉 学の構想」の序論として Author(s) 中村, 剛 Citation メタフュシカ. 42 P.123-P.134 Issue Date 2011-12-25 Text Version publisher URL /10.18910/23317 DOI 10.18910/23317 Rights 福祉哲学とは何か -?123?- 福祉哲学とは何か ―「超越論的次元を踏まえた社会福祉学の構想」の序論として― 中村　剛 Ⅰ．はじめに 少子高齢社会、不安定な雇用、家族や地域における扶養機能の低下。このような社会状況のな か、年間 3万人以上の自死者、子どもまで含まれる貧困、児童?高齢者?障害者への虐待といっ た緊急度の高い問題が山積しており、社会福祉という営みの重要性が増している。にもかかわら ず、社会福祉についての学知である社会福祉学は未だ確立されていない。結果、経済?政治?財 政といった外的要因にそのあり方が左右され、応益負担を導入した障害者自立支援法1に見られ るように、これを社会福祉と言っていいのか、といった様相を呈している制度も見られるように なってきている。 いま必要なことは、社会福祉とはこういうものであり、そう言える根拠はこうである、と主張 することができる社会福祉学を構築することである。そして、その社会福祉学を根拠に、外的要 因に左右されない社会福祉を維持発展させていくことである。そのためには、社会福祉とは何で あるのかを、その根底から問い考える福祉哲学が必要ではないか。これが本稿の問題意識である。 福祉哲学という営み（思考）は、社会福祉の領域においてすでに行われている。しかしながら、 それが「福祉哲学」という形で社会福祉関係者において承認されている訳ではない。そのため本 稿では、先行研究（福祉哲学という思考）を整理することで、福祉哲学とは何であるのかを明示 することを目的とする。 なお本稿は、「超越論的次元を踏まえた社会福祉学の構想」という研究計画の序論に位置する ものであり、この計画を遂行するための方法を示すものである。 Ⅱ．福祉と哲学 本稿では「社会福祉という営みの中で、あるいは、社会福祉という営みに対して行われる哲学」 1? 2011年 12月に改正障害者自立支援法が成立し、利用者の自己負担は原則「応能負担」となった。ただし、改正 障害者自立支援法も多くの課題を抱えている。 福祉哲学とは何か -?124?- を福祉哲学と捉える。このような意味における福祉哲学の内容を明らかにするために、まず、福 祉と哲学の意味を確認することから始める。 1．福祉とは 福祉には「心地よい暮らし」といった意味がある。しかし、福祉哲学における福祉は社会福祉 を意味する。社会福祉という言葉に統一された定義はないが2、その営みには 1つの本質的な特 徴がある。それは、“最後の一人” の福祉の実現を目指すことである。 「みんなの幸せ」という言葉を耳にする。しかし、その場合の多くは大多数の人の幸せを意味 し、いつの時代?社会にもそこに入らない人びと、そこから排除されている人びとがいる。その 人たちを取り込もうとする動き（インクルージョン＝包摂）があっても、それでもなおそこに入 らず、あるいは排除されてしまう人びとがいる。社会福祉の本質的な特徴は、排除されている “最 後の一人” の福祉（幸せを感じられる諸条件）の実現を目指すという点にある。 いつの時代?社会にも、周囲から気づかれずに困難な生活?人間らしい生活ができずに苦しん でいる人たちが存在している。そのことを踏まえつつ、可能な限りそれらの人びとに気づき、必 要な支援をするのが社会福祉である。 2．哲学とは 哲学はギリシアで生まれた。そのため、「哲学とは何か」という問いの答えは、古代ギリシア に遡れば得られると思われるかもしれない。しかしながら納富がいうように「古代ギリシアこそ、 『哲学とは何か』をめぐる対立と論争のアリーナ」3であり、一義的に「哲学とは～である」とい うことはできない。ただし、おおよその意味を示すことは可能である。以下では、視点、対象、 目的、方法の観点から哲学の概略を示す。 （1）視点 「心理学や社会学、社会科学等においても、科学者は、自分自身をも含めた世界の全体をもっ ぱら対象化し、その外に立ち、それを外から観察しよう」4とする。これに対し哲学は「生身の自 分自身であらざるをえないわれわれ人間が、そうゆう人間のままいわば内側から世界を眺め、世 界を捉えるという、そういうすぐれて内在的な営み」5である。 （2）対象 ①自明な事柄 われわれが自明なこととしているため