PDFFUII - 土木工学系 - 名古屋工業大学.docxVIP

題目　絶滅危惧種サギソウにおけるフェノロジーの経年比較頻度第１章　序論地球上の生物は,既知のものだけで約140万種，未知の種と合わせると300から3000万種にも及ぶと推測されているが，そのうち毎年4万種が絶滅していると言われており，絶滅の脅威にさらされた野生生物の種の保存は，地球レベルで緊急に取り組むべき重要な課題となっている．　しかし，我が国においても，人間活動や各種開発行為による生息地の破壊や，無秩序な捕獲?採取等により多くの種が絶滅に追いやられ，また，絶滅の危機に直面している．これらの種の保護対策を進めるための科学的な基盤とするため，環境庁では，絶滅のおそれのある種の現状を把握するための調査を実地し，平成3年に動物版レッドデータブック(日本の絶滅のおそれのある野生生物)を取りまとめた．植物については，平成元年に，日本自然保護協会等から，レッドデータブックが発行された．(改訂?日本の絶滅のおそれがある野生生物　環境庁　2000)　日本の自然保護行政や自然保護をめぐる議論の中で，生態系の機能を保護することの重要性が強調されてきた．生態系とは相互に作用しあう生物的自然と物理的環境を物質およびエネルギーの流れの系としてとらえた概念である．生態系は環境(大気?水?土壌など)を安定化させる機能，環境を浄化する機能，そして生物生産を行う機能を有しており，これらの機能を保護することは人間の生存に直接かかわる重要な問題である．一方で，生態系の機能の保全だけでなく，種の保護が必要とされる理由は以下の5つがあげられる．遺伝的多様性の保護近年，野生植物の潜在的遺伝子資源としての重要性が強調されるようになってきた．これは遺伝子くみかえ技術を中心とするバイオテクノロジーの進歩によって，野生種がもつ有用遺伝子を有用植物の育種に活用できる技術的展望が開かれたことを反映している．遺伝子くみかえ技術を応用した育種においては，利用可能な遺伝子はこれまでのように有用植物の近縁種に限定されないため，すべての野生種が資源としての潜在的価値をもつようになったのである．生体的多様性の保護　ある地域の生物群集は，複雑にからまった種間の相互作用のうえに成り立っている．植物は食料としてさまざまな動物の種に利用されており，植物と動物の種間には巧妙な相互適応的関係が成立していることが知られている．このような群集の構造はその地域の環境の独自性?歴史の独自性を強く反映しているので，一つの野生植物種の絶滅が他の種にどのような影響を及ぼすのかを予想することは大変難しい．しかし野生植物種の絶滅は間違いなく他の植物種?動物種に何らかの変化を引きおこさざるを得ない．教育研究の素材としての野生植物　生物学は人類の生存を支える科学として今日大きな注目を集めている．生物学の研究においては，野生生物の種がもつさまざまな性質が研究対象とされ，また実験材料として活用されている．とくに近年では遺伝子工学的研究技術の進歩にともなって，生物学の歴史の中で長く研究されてきた実験生物だけでなく，多様な野生生物種が基礎生物学の進歩に欠かせないものとなっている．今後の植物学の発展のためには，野生植物の多様性を保護し，種を絶滅させないようにすることが必要である．文化財としての野生生物　ある地域の植物相は，その地域の独自性?歴史の独自性の下で成立したものである．これらを保護し探求することは地域の文化的営みとしての価値を有している．地域固有の植物として古くから知られている種については，天然記念物の指定を受けて保護されている場合が少なくない．自然に対する人間の倫理　野生種の保護が必要な他の側面は倫理的なものである．言うまでもなく人間は生物進化の結果生まれた一生物種であり，この点では他の多くの生物種と何ら変わりない．同じように進化の結果生まれ，自然界に存在している他の生物種を人間の都合で絶滅させないということは，人間が自然に対して持つべき倫理である．(我が国における保護上重要な植物種の現状　我が国における保護上重要な植物種及び群落に関する研究委員会　1989)　本研究では，愛知県内の湿地に生息しており，絶滅危惧種に指定されているサギソウという植物を調査対象とした．サギソウは2008年以前の調査ではほとんど観測されてなかった集団にも，2009年，2010年には100弱の個体が観測されている(高井，2009　山本，2010)そこで，今回調査した2011年のデータと2009，2010年のサギソウにおけるフェノロジーのデータを比較し，年変動がどのように影響しているのかを示し，今後の保全活動を行う上で役立てていくことを目的としている．　第２章　調査材料?調査地１．調査材料今回調査の対象としたのは，ラン科サギソウ属サギソウ（Pectei