オリエンテーリングを利用した視覚障害者の歩行実験.PDF

横浜市環境科学研究所報第32号 2008 オリエンテーリングを利用した視覚障害者の歩行実験 鹿島教昭*1 （横浜市環境科学研究所） 田村明弘*2 ・太田篤史*3 （横浜国大工学部） 鈴木和子*4 （横浜市立盲学校）、小澤繁之*5 （横浜市視覚障害者福祉協会） Experimental walking of the visually challenged by means of orienteering ＊1 ：Kashima Noriaki (Yokohama Environmental Research Institute) ＊2 ：Tamura Akihiro and ＊3:Ota Atsushi (Faculty of Engineering、Yokohama National Univ.) ＊4 ：Suzuki Kazuko (Yokohama City School for the Visually Impaired) ＊5 ：Ozawa Shigeyuki(Yokohama Association of the Blind) キーワード：視覚障害者、オリエンテーリング、音声情報装置、歩行訓練、歩行実験、メンタルマップ 要旨 視覚障害者は街からの聴覚、嗅覚及び触覚情報を駆使して歩行する。それらの情報を備えた街の一地区(120ｍ×170ｍ) に 5台の発信機を設置し、視覚障害者が携帯する受信機で発信機から位置情報として音声で断片的指令を受けながら計9つの チェックポイントを、時間制限無しで通過しゴールするオリエンテーリング実験を行った。4名の被験者は地区の概略のみ の触地図を与えられ、全員が自らの判断で歩行コースを選択しゴールした結果から、この手法は、改善・開発の余地は大 いにあるが、視覚障害者の歩行意欲を高め、彼らのメンタルマップの形成に寄与し、歩行に楽しみを増す可能性は大きい と考えられる。 1．はじめに という不便さはあるものの、音声で位置情報を得る便利さ 視覚障害者は屋外歩行をする場合、視覚以外の触覚、聴 は視覚障害者にとって画期的であること、二つの位置情報 覚、嗅覚などからの情報を駆使して環境を把握する。彼ら の2次元的関係の把握が容易になること等が判明した。但 が外出時に携帯する白杖は、触覚情報としての、主として し、赤外線は指向性が強く、従って長所として方向が認知 点情報を、また或る範囲の線情報をほぼ確実に与える。他 し得るが、受信機を或る範囲内で発信機に向けねばならな 方、環境音は3次元の空間情報であり情報量が多く、その い短所を有する。 上手な利用は、点情報に比し空間内における自己の定位と 今回は、視覚障害者の歩行意欲を高め、その楽しみを与 進行方向の確認に勝る。 えつつ、メンタルマップの2次元化に役立つ歩行訓練の基 これまで視覚障害者支援研究は多くが誘導に関するもの 礎資料を得ることを目的に、市街地に音声情報装置を組み であり、最近では全地球測位システム(GPS) を利用し携帯 込んだオリエンテーリング実験を初の試みとして行った。 1 2 型の受信端末に音声で位置情報を伝える研究 ､ ）や携帯電 話で公共トイレに誘導する研究3) なども行われている。 2．実験地区の選定 GPS利用では稠密な高層建物周囲や地下街では受信困難と 地区には触覚、聴覚、嗅覚等の情報が得やすく、道路構 なり、携帯電話では、音声読み上げシステムが無いために 成の簡易さ、常に同一位置にあり信号音として利用できる 音声ファイルをダウンロードして聞くという面倒な手順を 音や動線としての歩行音や人声、車の音の存在、変化に富 要し、操作性の困難さが未解決であ