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外科学講座 2008 年年報 巻頭言 外科学講座チェアマン 大木隆生 「大外科講座制を堅持しよう」 私は、2007 年 4 月より慈恵医大外科学講座の統括責任者を拝命しました。現在、外科学 講座は消化器外科、呼吸器・乳腺内分泌、血管・小児外科の 3 分野で構成されており、そ れぞれに分野担当教授がいます。３分野は消化管外科（柏木部長）、血管外科（大木）、肝 胆膵外科（矢永部長）、乳腺内分泌外科（内田部長）、呼吸器外科（森川部長）、小児外科（大 木代行） （今年度の診療報酬額順に）の６つの診療科分けられています。原則として、分野 担当教授は主に研究と教育の指導にあたり、診療に関しては各診療部長が自立性をもって 運営することになっています。統括責任者の仕事は、しばしばみられる各分野や診療部間 の利害調整、またややもすると各分野や診療部がばらばらに行動（人事、学会の選挙活動 など）しないようにする事等です。 このような、慈恵医大は全国的に見ても稀有な大外科講座制をとっています。大講座制 にはメリットとデメリットがあります。メリットとしては、第一にスケールメリットが挙 げられます。スケールメリットの利点は、外科学に限らずあらゆる業種に普遍的なもので あり、近年の金融・証券業界、製薬業界、食品業界などの再編・統合をみても一目瞭然で す。研究室、設備、研究補助員、秘書などのインフラも、各診療部が独自に整備するより、 共有した方が効率は良いでしょう。 外科学に固有の利点としては、まず卒後教育の充実が挙げられます。前述した各診療科 には、それぞれに subspecialty としての専門医制度（例えば消化器外科専門医、心臓血管 外科専門医）が設けられていますが、いずれの専門医を取得する場合にも日本外科学会の 外科専門医を有していることが前提となっています。外科専門医取得のためには、各診療 部で行われている様々な疾患・手術を幅広く経験することが要求されるので、初期臨床研 修を終えたレジデントや若手の医局員に外科専門医をスムーズに取得させるためには、必 要分野が一つにまとまった大講座制が好都合です。 第３の利点としては、関連病院の運営が挙げられます。当科が医師を派遣している病院 は、分院を含め２９施設で派遣人数は１３３人です。６つの診療科がばらばらに２９の病 院に医師を派遣する事は現実的ではありませんし、関連病院の運営に大きな支障を来たし ます。第４の利点として、学会活動を有利に運べることがあります。すなわち日本外科学 会、日本消化器外科学会、日本内視鏡外科学会などの学会を慈恵で主宰するための選挙活 動において、大講座制が有利なのです。こうした学会の主宰校を決める選挙において、候 補者の一本化や調整を行う際に、大講座が有利な事は言うまでもないことです。では、学 会を慈恵で主宰することにはどのような意味があるでしょうか？学会を主宰することは、 医学の発展に貢献するばかりでなく、医局員の心を一つにする“お祭り”的効果もありま す。また、講座の使命の一つとして、慈恵医大のブランドイメージを向上させることが含 まれていますが、それはブランドイメージが、優秀な学生や研修医の獲得、診療実績の向 上につながるからです。伝統と権威のある学会を慈恵で主宰する事は、メディア戦略と並 び母校のブランドイメージ向上にも寄与します。 慈恵に限らず多くの病院では、各診療部の医師数はその診療科に課せられている仕事量 や診療報酬（収入）により決められていますが、単独では小さな診療科には浮沈はつき物 です。その都度スタッフ数を変えていては、効率的な運営はできません。また、診療報酬 が厚生労働省により人為的に低く設定されているために（実情を反映していない診療報酬）、 多忙で過酷な労働であるにも関わらず診療報酬が低い診療科もあります。本院の血管外科 は、4 年前と比べ診療報酬額が約 100 倍増えましたが、私を含めたスタッフ数は 8 名と少 数のままです。慈恵医大本院（全診療科）での医師一人当たりの収入は約 6 １0 万円（1 ヶ 月）ですが、これをもとに試算すると血管外科には 22 名の医師がいてもおかしくないので す。しかし、血管外科にはこれほど多くの医師は要りませんので、血管外科の収入をもと に得た有給スタッフ枠を、多忙であるにも関わらず収入が低い診療科のスタッフ枠に回せ るのです。調子が良い診療科が、たまたま調子の悪い診療科を助けるといったことができ るのも大講座の利点といえるでしょう。 さらに、研修医