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社会人大学院の持つ意義について 呼吸器外科学 教授 蘇 原 泰 則 平成１８年度から社会人大学院制度が導入され、我々呼吸器外科学部門でも２人の大学院生を受け入れました。一人は宇 都宮社会保険病院、もう一人は自治医大附属病院に勤務する医師です。今後、彼等は呼吸器外科医としての生活基盤を持ち ながら、研究活動を行うことになります。 臨床医の研究スタイルは様々の変遷を経て現在に至っております。昭和４０年代の激しい医学部紛争は、学位を利用した 医師への労働収奪に対する生活闘争でした。当時、学位を取得しなければ、医局での地位向上や関連病院への就職が不可能 だったのです。研究テーマは教授から一方的に与えられるもので、研究者の自由な発想に基づくのもではありませんでした。 しかし、めでたく学位を取得できれば、確実にステップアップすることができました。 医学部紛争は教授権限の著しい低下を持って終わりました。以後、研究者たちは自分の興味や夢に基づいた自由な発想で 研究を行えるようになりました。当時、医療保険制度が緩やかで、大学病院では採算を度外視した研究性の高い診療も可能 でしたので、多くの興味のある研究が生まれました。また、臨床業務が少なく、研究に十分な時間を費やすことができたの で、低賃金ではありましたが、数多くの優秀な人材が大学に残りました。 この情況を一変させたのが医療保険財政の悪化です。大学病院でも採算を無視した診療が行えなくなったため、医師たち は日常診療に追われ、奔命に疲れ果て、研究に費やす時間が持てなくなりました。大学が持っていたゆったりした時間や自 由な雰囲気、夢ある研究体制が崩れてしまったのです。このため、優秀な人材が次々と大学を離れ、研究体制が崩壊しつつ あります。 医学研究は夢を追うものだと思います。しかし、人は夢を食って生き行くことはできません。生活の基盤なくして、優れ た研究は生まれません。今のような情況が続くと、財力ある特殊な医師しか研究を行えなくなります。これは医学研究の終 焉を意味します。 このような危機的状況を打開してくれるのが社会人大学院制度であると期待しております。研究に夢を持つ貴重な人材を 物心両面で支える体制ができあがれば、再び大学に人材が戻ってきてくれるものと信じております。このためにも、社会人 大学院生を大切に育ててゆきたいと思っております。 社会人大学院入学によせて 地域医療学系専攻１年 手 塚 憲 志 自治医科大学医学部１６期卒業で、現在、医師になって１４年目になります。栃木県出身です。義務年限終了後、自治医 大呼吸器外科に入局し、現在は宇都宮社会保険病院にて胸部外科医として働いています。一人で外来、検査、手術、病棟と やっていますので、結構忙しい毎日を送っています。 大学院入学のいきさつをお話します。今年の初め、蘇原教授から、「４月から自治医大でも社会人大学院が始まることに なった、入学してみないか？」と電話をいただきました。たしか願書締め切り１０日前だったと思います。そのとき初めて 社会人大学院の事実を知りました。卒業後、２年間初期研修を自治医大で行い、中核病院に外科医として６年、後期研修で 大学に戻り２年、そして診療所３年勤務してきました。研究は診療所にいるときはきっちり研究日をもらえましたので、 大学に週一回きてやってきました。しかし、最近は仕事が忙しくなかなか実験をできていませんでした。そんな姿をみて、 教授は社会人大学入学を勧めてくださったのだと思います。 正直いいますとこの年で今更？といった気持ちもなかったわけではありません。仕事はそれなりに忙しい毎日を過ごして いましたし、妻も妊娠中で５月に３人目も生まれる予定でしたし、（無事男の子が生まれました！）いろいろ迷った上で受験 することにしました。 社会人大学院については、３、４年目に勤務していた病院で同僚が他大学の社会人大学院に入学していて、「へえ、そんな ものもあるんだ