税効果会計と利益操作 - dbj.jp.pdfVIP

経済経営研究 Vol.25 No.6 2005年3月 日本政策投資銀行設備投資研究所 税効果会計と利益操作＊ ― 倒産企業における実証分析 ― 一ノ宮士郎† （日本政策投資銀行設備投資研究所） ＊ 本稿の作成に当っては、早稲田大学 須田一幸教授、京都大学 徳賀芳弘教授から有益な助言を頂戴し た。また設備投資研究所での報告会において、青山学院大学 八田進二教授をはじめ参加者の方々から貴重 なコメントを頂いた。記して感謝したい。もちろんあり得べき誤りは全て筆者の責任である。 † E-mail: srichin@dbj.go.jp Accounting for Income Taxes and Earnings Management: An Empirical Analysis of Bankrupt Firms Economics Today,Vol.25,No.6,March,2005 Shiro ICHINOMIYA Research Institute of Capital Formation Development Bank of Japan 要 旨 我が国の会計制度の一大改革である「会計ビッグバン」で導入された新会計基準には、 経営者による見積りの拡大等の問題が存在するため、従来にもまして裁量的な会計行動が 誘発される可能性があることが示唆されてきた。税効果会計に関しては、特に繰延税金資 産の回収可能性判断を巡り利益操作の問題が指摘され、例えば、銀行が自己資本比率の嵩 上げのために、税効果会計を裁量的に利用したことも実証されている。 本稿は、業績悪化企業の典型である倒産企業を対象に、税効果会計と利益操作の関係を 実証的に解明するものである。「倒産企業は税効果会計を利益操作に利用した可能性が高 い」という利益操作仮説を設定したところ、利益操作仮説を支持する結論が得られた。 税効果会計により期間損益の適正化が図られ、透明性の高い、実態を反映した会計情報 が本来開示されるはずであった。しかし、相次ぐ銀行の経営破綻を契機に、繰延税金資産 の計上については、社会的に大きな批判が加えられた。繰延税金資産がたとえ巨額な金額 になったとしても、回収可能性の確実性が高い限り、理論上問題はないはずであるが、税 効果会計の理論と実務には乖離が生じてしまっている。本稿で示したように、利益操作に 税効果会計を利用している好ましからざる会計実務が存在している事実も、この乖離の一 例というべきであろう。 キーワード： 税効果会計、利益操作、倒産 目 次 はじめに ······················································································· １ 第１章 利益操作における税効果会計·················································· ２ Ⅰ 利益操作とは Ⅱ 税効果会計実務の現状 １ 税効果会計の概要 ２ 税効果会計の適用状況 ３ 税効果会計実務の問題点 ４ 倒産企業と税効果会計 第２章 税効果会計と利益操作に関する先行研究 ································