子どもの算数文章題解法過程の認知論的分析I.pdfVIP

愛知教育人学教科教育センター研究報告 第12号、P p. 271~282 (March、1988) 子どもの算数文章題解法過程の認知論的分析I 愛知教育大学数学教室 石 田 淳 一 愛知教育大学 心理学教室 多 鹿 秀 継 (昭和62年12月22日受理) 『・・・しかしながら,理解するとい 造と言える。また,解法の過程とは,やはり過去 うことの本質が外部に現われた行為に 経験に基づいて貯蔵してきた算数的知識(ここで 先行する内的生涯におけるある事象を は演算および演算決定のための方略など)を自ら 推論したり推測したりするという点に 形成したメンタルモデルに適用して解答を得る過 あるのではないとするならば,理解す 程と考えられる。上述したRyle( 1949)の知識 るということはいったいいかなること 論において重視されているように,この過程では なのであろうか。 ・・・理解するとい 解き方そのものが考察の対象となる(但し, Ryle うことは方法howを知ることの一部分 の知識論に見られる「方法を知ること」( knowing なのである。そして,特定の理知的な how)は,何も解法の過程において使用される知 行為を理解するために必要とされる知 識に限定されない)。 識とは,その種の行為をみずからある 本論文では,紙面の都合により,子どもの算数 程度行なうことができるという能力に 文章題解法の1つの下位過程に当たる理解過程に ほかならない。 ・・・「理解すること」 関する研究を展望する。それ故,子どもの算数文 ・・・という語は,方法の知識のある 章題解法の他方の下位過程である解法の過程に関 種の行使を意味する。 ・・・』 する文献展望は,次回の報告に譲る。また,算数 (Ryle, 1949 ; 坂本・宮下・服部訳, 1987 ) 文章題の解法過程を明らかにするためには,算数 文章題を解く子ども自身の年齢差を吟味すること 1。本論文の目的と構成 も必要であり,年齢の違いにより使用する方略の 本論文の目的は,算数の文章題を与えられた子 内容や適用事態が異なる結果が報告されている( どもが文章題を解く過程に焦点を当てた研究を展 例えば, Mayer, 1985a : Resnick Ford,1981 望し,認知論的分析に基づく算数文章題の解法過 Riley, Greeno, Heller, 1983)。 しかしな 程の研究に資するものである。 がら,その場合は,子どもの認知発達に主眼を置 子どもの算数文章題の解法過程は,通常,文章 いた心理学的研究となり,ここでは報告されない 題を読んで理解する過程と解法の過程に2分され であろう。 る(Hinsley, Hayes, Simon, 1977 ; Mayer, さて,算数文章題の理解過程は,以下の2種類 1982 ; Paige Simon,